コンサルタントのジレンマ

「ジレンマ」は2つの論理のぶつかり合いで、右に行くか左に行くかの選択にさらされること。

どちらを選択するのが正しいかは分からないが決めなければならない。

コンサルタントになって3年後で、そろそろ独り立ちし始めたころのことである。

社員数200名ほどの電設会社で、大手重電メーカーの傘下であり、この重電メーカーの役員からの依頼である。

社長はまもなく70歳になるので、後継経営者として長男を想定し路線を敷きたいとのことである。 

この依頼は、生涯を通じての私のメインの領域であり、十指に余る案件を担当した。

部下のアシスタントに、この電設会社の実態把握するための調査をしてもらった。

検討が進むにつれて、大変なジレンマに晒されることが予感された。

社長にとって長男は大変自慢な跡取りである。 名門私立大学を出て大手商社で活躍していたところを、「後継者なるべく是非帰ってきてくれ」と懇願して二年前に入社させたのである。

コンサルテーションは、この長男と次男及び将来の幹部と目されるメンバー10名前後で「将来の組織設計」検討会議を進めていた。

徐々に観えてきたことは、長男は「所謂ベキ論で、机上論で、上から目線で、権力指向が強く、自己の利益を優先するタイプ」であった。

他者・メンバーとの関係や会話は、ストレートな率直な発言は稀で、カーブやシュートのような発言が多く皮肉めいた発言が多く、効果的会議や関係が成り立たなく、メンバーからは浮いた存在であった。

仕事柄多くの経営リーダーを観てきているので、それなりの人物眼を備えているつもりだが、どのように贔屓目に見ても、リーダーシップに欠けるように思える。 

この感触を社長に伝えるべきか否かで、大いに悩んだ。

長男が社長になれば、社員は嫌気をさして会社は数年も持たないのではないか、社員が可哀想に思えてならない。

幸か不幸か次男は、長男をサポートして控えめであるが、長男とは正反対で、現場を知り、会話が成り立ち、人望があり優秀だ、さてどうする。

案1・・・依頼主の社長の機嫌を損ねないように、この仕事をそっと終わらせるか

案2・・・クライアント組織のために、知りえたことを包み隠さず社長に伝えるか。

社長の機嫌を損ねれば、当該プロジェクトをカットされる恐れは大いにある。

カットされると、アサインしてくれたわが社の営業員の売上も減り、ガッカリさせるだろうし、私の会社での評判も落ちるだろう。 

まさにジレンマ!!  みなさんならどうする。

   このプロジェクトを紹介していただいた大手重電メーカーの役員さんとは仲が良かったのでご相談の場を設けた。

焼き鳥の老舗「京橋の伊勢廣」である。

ふっくらした薄塩でわさびを乗せた「ささみ」に、外はカリッと焼け中はクリーミーな「レバー」、上品なタレ味の「つくね」や「ねぎま」、焦げ目を付けた「手羽先」などをつまみにして純米吟醸「真澄」を冷酒で戴く。  

このようなお店は最近ではかなり多くなったが、未だにここ以上にうまい焼鳥に出くわしてない。

白磁に蛇の目の大型の茶碗になみなみと注がれた「冷酒」をグビッとやりながら、件(くだん)の件(けん)を語っていたら、その推薦者から一言「身内や社内の人が言えないことを語るから、コンサルタントは価値があるのでは無いの」と一刀両断で言い放ってくれた。

度胸を決めなければこんなに高いフィーはいただけないのだと改めて胸に刻んだ。

以後、このようなジレンマは幾度となく遭遇した、社長である父親は概して息子を正当に評価出来ていないと感じる。  

贔屓目が強すぎたり、反対に過小評価であったりである。

私の正直な実感は、将来の真のリーダー足り得るご子息後継者は一割と思う、全く駄目な方はそれほど居ない、なんとか及第点は取れているのだが、責任ある立場になるのであるから、その程度では残念なことになる。

厄介な方は、生まれも育ちも良いが、自信のなさを過剰防衛として様々なネジレタ行動をする後継者だ。

では、この結末はどうなったかである。

社長には包み隠さず報告することにした。

しかし誰が後継者になろうとも「会社の将来像」とその「移行プロセス」はデザインしなければならない。

プロジェクト進行過程で、長男も自分の立ち位置や周囲の認知が見えたらしく、相当に控えめに行動するようになった。

長男に対して「コーチング」を受けることをそれとなくおすすめしたが、ガードが固くついに踏み込めなかった。

次男を軸にした変革計画が出来上がり、報告が済んだ後に大手重電メーカーの役員さんとともに、社長に対しての座談的報告をした。

社長は中々受け入れにくかったようだが、次男の変化にも気づき喜んでおられた。

後日、長男が関連会社を引き継いだとのことを聞きホットしたことが思い出される。